「新しい鞄をつくったので、ブランドとして展開するために名前が欲しい」
そんな一言から、今回のプロジェクトは始まりました。
日本の暮らしに深く根付いている畳。その端を彩る布「畳縁(たたみべり)」は、実は日本人なら誰しも一度は目にしたことがあるはずです。
この畳縁を活かした鞄は、軽くて丈夫であるだけでなく、模様や色が豊富で、伝統的でありながら新鮮さを感じさせるユニークな素材です。
しかし、魅力的なプロダクトであっても、それを象徴する「名前」がなければブランドは始まりません。畳縁という日本らしさを一言で伝えながらも、日常に寄り添う軽やかさを持たせること。まさに「言葉の力」で未来を拓くプロジェクトでした。
課題は大きく2つ。
『商品名を聞いただけで畳縁の鞄だと伝わること』
『伝統を背負いながらも堅苦しくならず、親しみを持って口にできること』
「伝統文化」と聞くと、どうしても“格式ばった”印象になりがちです。
ですがこの鞄は、日常の延長線上にある暮らしの道具。肩肘張らずに手に取れるカジュアルさと、同時に日本文化の誇りを感じられるネーミングが求められました。
私たちは「作る人」「売る人」の想いを丁寧にすくい上げることから始めました。ブレインストーミングでは、畳縁の鞄を見たときに浮かぶイメージを一人ひとりがカードに書き出しました。
「和」「縁」「色彩」「丈夫さ」「遊び心」…そこには伝統と日常、懐かしさと新しさが入り混じった多様な言葉が並びました。
出てきたワードを組み合わせたり、あえて切り口を変えてみたり。
候補を提示しては投票制度を導入し、議論を重ねました。
そうしたプロセスそのものが“ご縁”を感じさせる時間となり、最終的にたどり着いたのが『にの縁』という名前でした。
“縁(えん)”は畳縁の「へり」であると同時に、人と人との「ご縁」を意味します。
“に”は「日本」の「に」、そして「縁(えん)」と重なり合い、「日本の縁」を象徴する響きとなりました。
この一言には、伝統素材と人々のつながりを未来につなげていく想いが込められています。
ブランド名が決まると、次はその言葉を視覚的に表現するロゴ制作へ。
ただ美しく見せるのではなく、ネーミングの背景にある「意味」をデザインに落とし込むことを大切にしました。畳縁の持つ模様や直線的な美しさを意識しながら、日本らしさと現代性を共存させたロゴが完成。
“名前とデザインが響き合う”ことで、ブランドとしての一体感が生まれました。
・素材や商品の特徴を“言葉の引き出し”として整理し、誰もが納得できる形に結実
・商品名とロゴを連動させ、一貫したブランドイメージを構築